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Being with

 

 「ひさしぶりやもんね、びっくりしたね」─そのお母さんは、大泣きしている2歳の春くんを抱きかかえ、顔を背ける彼をあやし続けます。どの位たったでしょうか。春くんが顔を上げて「あっ」という表情をします。お母さんはそれを見つけると、「ママやよ」と顔をほころばせます。それを見た彼は、母にぎゅっと自分からしがみつきます。今度は「これだ」という確信に満ちた顔で。

 

 これは、施設入所中の子どもと親に向けた親子関係再構築のプログラム“ふぁり”を開始して5カ月経った頃の面会の一場面です。当初は春くんに大泣きされ、「この子は自分じゃなくて施設の先生がいいんだ…」と涙していたお母さん。何度もの親子交流を重ねた末の瞬間でした。「生まれてきてよかったなぁ…春くん」思わず、その存在に手を合わせたくなる私がいました。この十数秒の瞬間。私は、彼と母の人生のこの一コマの証人です。

 「今日、誰を頼りにしたらいいの?」お母さんは、そんな子ども時代を過ごした人でした。「親」のイメージもありませんでした。しかし今、彼女は「春くんの話を聴いてあげられる親になりたい」と希望を語ります。私たちは、子ども時代からこれからを生きる彼女の「今」に出会うのです。

 

 私がバイオグラフィーワークの学びを始めたのは、子育て困難を抱える親と子への支援(CRC/※参照)を始めたのと同じ15年前です。「親子支援のために必要な何かがある」という直感で参加を決め、年に数回、合宿形式で行われる講座に通い始めました。活動を軌道に乗せることに必死だった私は、「なんでこんな忙しい中、遠くまで通うのか…」と余裕のない状態の時もありました。しかし、そんな私の横には学びを共にする仲間がいました。その中で子ども時代からの自分、そして仲間の光の瞬間に出会えたことが私に力を与えてくれました。バイオグラフィーワークは、「親子のため」以前に「私自身のため」にあったのです。

 

 あの場は、私が親子支援に向かうための安心の基地でした。ジャッジをされず、関心を向けて横にいてくれる“Being with”という体験は、私のお守りになっています。「どの子どもや親にも、この“Being with”の存在があること」これが私の願いです。しかし、気づけば横にいられずDoingになる私。今日も学びが続きます。

 

(vol.8▶宮口 智恵/関西/4期

 

CRC:認定特定非営利活動法人チャイルド・リソースセンターの通称

写真はCRCのシンボル「ふぁり(ラテン語で灯台の意味)」

「一組の親子に安心基地を〜!」

(文中に出てくる親子は個人が特定できないように変更を加えています)

 

※次回は、八尋恵美さん(九州/3期)のリレーコラムです。どうぞお楽しみに。